2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

エミリの小さい包丁 森沢明夫

恋人に騙され、仕事もお金も居場所さえも失った25歳のエミリ。十五年ぶりに再開せた祖父の家に逃げ込んだものの、寂れた田舎の海辺の暮らしに馴染めない。そんな傷だらけのエミリの心わ救ったのは祖父の手料理と町の人々の優しさだった。カサゴの味噌汁、…

この世にたやすい仕事はない 津村記久子

「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますか?」ストレスに耐えかね前職を去った私のふざけた質問に、職安の相談員は、ありますとメガネをキラリと光らせる。隠しカメラを使った小説家の監視、巡回バスのニッチなアナウンス原稿づくり、そして・…

太陽のパスタ、豆のスープ 宮下奈都

結婚式直前に突然婚約解消されてしまった明日羽。失意のどん底にいる彼女に、祖母のロッカさんが提案したのは”ドリフターズ・リスト”の作成だった。自分はこれまで悔いなく過ごしてきたか。相手の意見やその場の空気に流されていなかっただろうか。自分の心…

水曜日の手紙 森沢明夫

水曜日の出来事を綴った手紙を送ると見知らぬ誰かの水曜日が届くという「水曜日郵便局」。主婦も直美は、職場や義父母との関係で抱えたストレスを日記に書き出すだけの毎日を変えたいと、理想の自分になりきって手紙を出す。絵本作家になる夢を諦めて今後の…

ミナトホテルの裏庭には 寺地はるな

祖父から大正末期に建てられた宿泊施設「ミナトホテル」の裏庭の鍵探しを頼まれた芯輔。金一封のお礼につられて赴いた先は、「わけあり」のお客だけを泊める、いっぷう変わったところだった。さらには失踪した猫も捜す羽目になり・・・。 私はホテルが好きで…

あしたから出版社 島田潤一郎

本当は就職したかった。でも、できなかった。33歳のぼくは、大切な人たちのために、一編の詩を本にすることに、出版社を始めることを決心したー。心こもった良書を刊行しつづける「一人出版社」夏葉社(なつようしゃ)の始まりから、青春の悩める日々、編…

百万円と苦虫女 タナダユキ

ひょんなことから前科者になってしまった鈴子は、どこにいても所在がない。ならば所在そのものをなくしてみよう!そんなネガティブかポジティブだかわからない発想から「百万円貯めては住処を転々とする」ことを決め、旅にでた鈴子。彼女を待ち受けているの…

その日のまえに 重松清

僕たちは「その日」に向かって生きてきたー。昨日までの、そして、明日からも続くはずの毎日を不意に断ち切る家族の死。消えゆく命を前にして、いったい何ができるのだろうか・・・。死にゆく妻を静かに見送る父と子らを中心に、それぞれのなかにある生と死…

ビタミンF 重松清

38歳、いつの間にか「昔」や「若い頃」といった言葉の抵抗感がなくなった。40歳、中学の息子としっくりいかない。妻の入院中、どう過ごせばいいのやら。36歳、「離婚してもいいけど」、妻が最近そうつぶやいた・・・。一時期の輝きを失い、人生の”中途…